今井ゆみ X IMAIYUMI

多摩美術大学 絵画科日本画専攻 卒業。美大卒業後、広告イベント会社、看板、印刷会社などで勤務しながらMacによるデザイン技術を習得。現在、日本画出身の異色デザイナーとして、日本画家、グラフィック&WEBデザイナーなど多方面でアーティスト活動中。

稲取アイス

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「祥恵、あそこの左側の岸壁につけよう」

お父さんは、ヨットを操船しながら、祥恵に言った。

「了解!左舷につけるのね」

祥恵は、お父さんに言われて、船の左舷側にフェンダー、ヨットが岸壁にふれても大丈夫なように船体を守る防舷材を取り付けていた。

「ゆみも、暇ならこっちに来て、フェンダーを付けるの手伝いなよ」

「付け方わからないもの」

ゆみは、お母さんと一緒に日傘の下に入ったままで、祥恵に答えた。祥恵は、1人でヨットの左側にぜんぶのフェンダーを付け終わると、お父さんがヨットを岸壁に着岸させた。ヨットが岸壁に着岸すると同時に、ロープを持った祥恵が、岸壁に飛び移って、そこに付いているビット、ロープを結んでおくところに、ヨットをロープでくくり付けた。

「お姉ちゃんって、なんでも出来るんだね」

日傘の下から見ていたゆみは、お母さんに言った。

「そうね。あなたのお姉ちゃんは何でも出来ちゃうのね」

お母さんも、祥恵のことを感心していた。

「さあ、お昼にしようか」

お父さんと祥恵で、ヨットを稲取の港に着岸し終えると、ヨットの上でお昼の食事になった。今日のお昼は、そうめんだ。ヨットの中のガスレンジでお湯を沸かし、そうめんを茹でたら、あとは付け合わせの野菜を切って、そうめんのつゆを注いだら完成だ。

「いただきます」

お父さんも、祥恵も、お母さんとゆみが作ったそうめんを美味しそうに食べていた。ゆみは、そんなに食欲は無かったのでお母さんと半分こした。

「お昼を食べ終わったら、港の方に見学に行こうか」

お父さんのかけ声で、ヨットの皆は岸壁に上陸して、港の中の賑わっているところに移動した。大きな漁港で、港の中にはいろいろな獲れたばかりの魚たちがいた。

「獲れたてのお魚だ。ゆみ、タコがいるわよ。今夜の夕食はタコの酢の物にしましょうか」

お母さんは、ゆみを連れて漁港の中の魚たちを見て、回っていた。

「さあ、お風呂に行こう!」

ある程度、漁港の中の魚を見終わると、お父さんは皆に言った。家族皆は、漁港の前の道を上がっていくと、その先の丘の上にある小さなホテルに向かった。

「すみません、日帰り入浴できますか」

お父さんは、ホテルのフロントで声をかけると、家族4人分の入浴券を購入し、ホテルの奥にある浴室に移動した。

「お父さん、ひとりぼっちになっちゃうね」

ゆみは、1人男性の浴室に向かうお父さんに言った。

「ゆみも、こっちに来るか?」

「ゆみ、お父さんと一緒に入ってあげればいいじゃない?」

祥恵が、ゆみに言った。

「入れないよ。男子じゃないもの」

「ゆみなら、まだ男子の方にも入れるよ」

祥恵は、背の低いゆみの頭をポンとしながら言った。

「お姉ちゃんのほうが、男っぽいじゃない」

ゆみは、祥恵に言い返していた。それから、3人は女子の浴室に入って、脱衣所でお風呂に入るために服を脱いでいた。

「お姉ちゃん、おっぱい大きくなったね」

ゆみは、祥恵のおっぱいを見て言った。

「でしょう。こんなに大きいと男子の浴室にはちょっと入れないでしょう。ゆり子とかには、いつも更衣室でおっぱい小さい、小さい言われているけど、そんなに言われるほど小さいわけではないのよ」

祥恵は、自分のおっぱいを揺らしてみせながら、ゆみに自慢した。

「でも、ゆり子お姉ちゃんの方が、もっと大きいけど」

「そうかな?って、ゆみは、ゆり子と一緒にお風呂とか着替えしたことあるの?」

「あるよ。この前、ゆり子お姉ちゃんの家で、一緒にお風呂に入ったもの」

ゆみは、祥恵に言った。

「そうよ。この間の夏休みに、吉祥寺に行ったとき、ゆみも、ゆり子ちゃんも汗をかいて、ゆり子ちゃんの家でお風呂に入れさせてもらったわよね」

「そうなんだ」

祥恵は、お母さんから話を聞いて、頷いた。

「あ、アイス!」

その後、ゆみたち女子がお風呂から上がってくると、ホテルのロビーのソファに座って、お父さんがアイスクリームを食べていた。

「ゆみも食べるか?」

「うん」

お父さんは、ポケットの小銭入れからコインをいくつか出して、ゆみに手渡してくれた。ゆみは、祥恵と一緒にロビーの奥のお土産屋さんに行くと、そこのアイスクリーム売り場でアイスを購入して戻ってきた。

「祥恵は、アイスキャンデーか」

戻ってきた祥恵がなめているアイスキャンディーを見て、お父さんがつぶやいた。

「ゆみは、お父さんと同じ稲取アイスだな」

ゆみの抱えているカップのアイスクリームを見て言った。

「稲取アイスなの?」

ゆみは、自分の持っているアイスのカップを見渡しながら言った。ゆみのアイスには、バニラアイスとは書いてあるが、特に稲取アイスとはどこにも書いていない。

「普通のバニラアイスじゃないの」

ゆみが、アイスを木のスプーンですくって食べているのを見ながら、祥恵は言った。

「普通のバニラアイスに見えるけど、おそらく稲取産だぞ」

お父さんは、自分の食べ終わったアイスのカップを確認しながら言った。

「ほら、稲取と書いてあるだろう」

お父さんに言われたカップの蓋、製造者のところを見ると、確かに稲取市の牧場の名前が書かれていた。

「牧場があるんだ。だったら、牧場に行ってみたいな」

動物好きのゆみは、自分のアイスを食べながらつぶやいていた。

熱海の夜につづく

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