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新人生活班
「見てみろ、皆ぬれているのに、お前だけが濡れてないなんて不公平だろう。海に飛びこんでこい!飛びこまなければヤマトには乗せないぞ」
古代進は、ゆみにそう言った。
「古代君!」
そんな古代進の態度に、森雪が一言文句を言って、ゆみのことをかばってくれた。
「まあ、いいや。とりあえず、お前たち新人の乗艦の挨拶はどうした?」
古代進は、びしょ濡れの卒業生たちに声をかけた。卒業生たちは、迎えに出てきてくれた古代進たちヤマト乗組員の前で整列した。太助やゆみも皆の端っこに並んだ。
「で、誰が挨拶してくれるんだ?」
卒業生たちは、整列して並んではいるが、誰も何も言わないので、古代進は卒業生たちに向かって質問した。
卒業生たちは、それぞれ顔を見合ってから、後ろのゆみたちの方を見た。
「ゆみちゃん、挨拶、挨拶」
太助が、横にいるゆみに声をかけた。ゆみは、宇宙戦士訓練学校の今期卒業生の中でMVP生だ。新人の挨拶などは、MVP生が皆をまとめてやることになっていた。
ゆみは、整列している卒業生たち皆の前に出た。
「宇宙戦士訓練学校卒業生代表、今井ゆみ以下38名、宇宙戦艦ヤマトに乗艦します」
ボロボロの着古した服に、長い髪は前髪まで下ろして、目が半分隠れている、まるで貞子みたいな姿だが、はっきりした声で挨拶をしたゆみだった。
「ゆみちゃん、頑張ったね。良くやったね」
後ろで整列しながら、ゆみの挨拶を聞いて、そう思ってくれたのは太助ただ一人だった。後の卒業生たちは皆、薄気味悪いブスめと思っていた。
「誰か挨拶しないのか?」
古代進は、卒業生たちに再度聞いた。今、ゆみが挨拶したばかりなのに、この質問には、卒業生たち皆、艦長代理、古代進はいったいどういう意味なのか不思議に思っていた。ゆみは、自分の声が小さかったのかと思ったので、
「ゆみ以下38名、宇宙戦艦ヤマトに乗艦します・・」
今度は、もう少しだけ声を大きくして挨拶を述べた。しかし、
「誰か挨拶しないのか?」
また古代進は、同じ質問を聞いてきた。
「なんだ、まだ卒業生代表も決まっていないのか?それじゃ、太助!お前が挨拶しろ」
古代進は、太助に言った。
「え、でも、今ゆみちゃん、ゆみさんが挨拶しましたけど・・」
「挨拶できないのか?」
古代進に言われて、仕方なく今度は太助が、整列している卒業生たちの前に出てきて挨拶した。
「宇宙戦士訓練学校卒業生、徳川太助以下38名、宇宙戦艦ヤマトに乗艦します」
太助の挨拶を聞いてから、古代進は整列している卒業生たちの頭数をざっと数えはじめた。
「おや、徳川太助以下38名ではなく、37名だろう」
古代進は、太助に言った。
「いいえ、38名です!」
「そうか?」
古代進は、もう一回卒業生の頭数を数え始める。その数え方を見ると、太助の横に立っているゆみの数が入っていないみたいだった。
「あ、あのう・・」
太助が、ゆみの方をチラッと見ながら、古代進に言った。
「あ、彼女はヤマトに乗らないからな。あのボートでまた学校に戻るから」
古代進は、太助に言った。整列している卒業生たちの後ろのゲートでは、ひっくり返ったボートをヤマト乗組員の南武たちが元に戻して、ゲート脇に舫っていた。
「さあ、お前さんは学校に戻りなさい」
そう言うと、古代進は、ゆみの手を掴んで引っ張ってボートのところに連れて行った。そして、ボートに乗せようとしていた。ゆみは、抵抗していた。
「あたしは、ヤマトに乗らなければならない目的がある!ぜったいに乗るから」
ゆみは、ボートに乗せようとする古代進に抵抗していた。古代進は、ヤマトの艦長代理で男性だ。その気になれば、身体の小さなゆみなど簡単にボートに乗せられそうなのに手こずっているような感じだった。
ゆみをボートに乗せるのに手こずっているように振る舞いながら、チラチラと森雪の顔を眺めていた。そのことに、やっと気づいた森雪は古代進に声をかけた。
「ヤマト生活班長、森雪。生活班の人手不足のため、彼女の生活班への人員補充を求めます」
森雪は、古代進とゆみのところにやって来ると、古代進に腕を引っ張られているゆみのことを引き取り、ヤマトに戻した。
「彼女を生活班へ補充したいです」
森雪は、ゆみの手を握ると、古代進に提案した。
「勝手にしろ!」
古代進は、森雪にそう言うと、整列している卒業生たちの先頭に戻り、卒業生、新人乗組員たちに訓示を述べ始めていた。
「さあ、私たちは生活班に行きましょうか」
森雪は、ゆみに言うと、ゆみの手を引いてヤマトの廊下を奥へと移動し始めた。
「いやよ!あたしは生活班なんかじゃないし!コスモタイガー班なんだから!離してよ、もー!もー!」
森雪に手を引っ張られて廊下の奥へ連れていかれながら、抵抗し叫んでいるゆみの声だけがゲートにいる卒業生たちのところにまで響いていた。
森雪先輩につづく