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ユーレイ部員
「さて、ようやく部員も7人になって部活動らしくなってきたな・・」
その日の放課後、大友先生は音楽職員室に集まってきた天文部の皆に言った。部員ではないのだが、麻子やまゆみも行くというので、ゆみも一緒にくっついてきていた。どうせ、今日は、祥恵のバスケ部があるので、バスケ部の練習が終わるまで、ゆみも待っていなければならないのだ。
「それじゃ、まず部長の挨拶からはじめるか」
大友先生に言われて、天文部部長の小汀は、皆に挨拶をした。小汀は4組の男子生徒だ。頭は良いのだが、もの静かなタイプの男子だった。
「それじゃ、自由に星の研究でもするか」
大友先生の言葉で、天文部の部員一同は、音楽職員室の応接セットのテーブルに星座表を広げて研究を始めていた。
「星の数ってこんなに多いんだ、すごいね」
「麻子、砂糖は何個にする?」
「1個でお願い。そこの場所って星の数がすごい集まっているんだね」
麻子は、星座表の一部、ものすごく星が集まった場所を指さした。
「ああ、ここはね、天の川って言って、ほら、七夕のときに織り姫と彦星が出会うって言われているだろう。まるで川のように、たくさんの星が集まっているんだよ」
田中が、自分の知っている宇宙の知識を披露していた。
「でも、なんか変じゃない?これ、星じゃなくて、お砂糖じゃない」
ゆみは、田中が指さした星座表の上の白い星の点々を指で触って、すくって自分の口の中になめてみながら言った。
「ゆみちゃん、鋭い!それ、さっきこぼしたお砂糖の粉じゃない!」
馬宮先生がティッシュで星座表の上にこぼれた砂糖の粉を拭き取りながら笑った。
「すごいじゃん、天の川!」
「星だけじゃなく砂糖まで集まっているんだね、田中」
「え、いや・・」
田中は、自分が砂糖の粉を指さしながら説明していたことを、まゆみに指摘されて、少し照れくさそうに苦笑いしていた。
「お茶、紅茶入りました」
栗原淳子が淹れた紅茶のポットを持って、皆のところにやって来た。栗原淳子の後ろには、良明が紅茶の入ったカップをお盆に乗せて持っていた。
「ああ、お茶入ったって。いただきましょう」
「先生、クッキー焼いてきたのよ」
馬宮先生がタッパーに入ったお手製のクッキーを皆の前に出した。
「うわ、美味しそう!」
「いただきます!」
皆は、馬宮先生のクッキーと紅茶を飲みながら、その日の夕方じゅう雑談して過ごしていた。その日の放課後で、天文部らしくまじめに星の研究をしていたのは、全体のうち、たったの1割ぐらいだった。
「今日って、なんか天文に関する話ってほとんどしていないよね」
「なんか、ずっと麻子のバレエの話をしていただけよね」
「でも、麻子のバレエの話おもしろかった!」
「確かに」
ゆみの言葉に大きく頷くまゆみだった。
「こういうのも部活動っていうんだ」
「良いんじゃないか。天文部だからって、天文の話ばかりしていなくても良いんだと先生は思うぞ。要は、部活動を通して、学校の皆と上手にコミュニケーションを取れるようになることが大事なじゃないか」
「そうだね」
大友先生の言葉に、麻子が賛成した。田中や鳥居、小汀部長でさえも、そのことに賛同していた。良明は、まだ皆の中であまり発言はしなかったが、ずっと栗原淳子の後ろで、皆の雑談を聞きながらなんだか楽しいと思っていた。
「ゆみ。お前はどうだった?」
「え?」
「今日の天文部は?楽しかったか?」
「うん。なんか皆といっぱいおしゃべりできたし」
ゆみは、大友先生に答えた。
「そうか。それじゃ、ゆみも部員になるか?」
「え、でも夜は起きれないけど・・」
ゆみは、大友先生に言った。
「だから、夜の観察会とかは欠席で、こうして放課後に集まってお話するだけの部員、ユーレイ部員になれば良いだろう」
「ユーレイ部員って・・」
麻子が、大友先生の提案を聞いて、思わず笑ってしまっていた。
「ユーレイ部員ってなに?」
ユーレイ部員の意味がよくわからないゆみは、麻子に聞いた。
「ユーレイ部員っていうのは、いちおう天文部に入部はしているんだけど、一度も部活動に出たことのない部員のことを、姿が見えないユーレイみたいだからユーレイ部員って言うのよ」
「放課後の雑談会だけで、夜の星空鑑賞会には一切出席しないからユーレイ部員だ」
大友先生は、自分でネーミングした自分の言葉を得意げに繰り返していた。
「うん!あたし、ユーレイ部員になる!」
ゆみは、嬉しそうに大友先生に返事した。
「それじゃ、ゆみも、あたしたちと同じ天文部だね!」
ゆみと麻子、まゆみはお互いに手を取りあって喜んでいた。
「部長、もう1人部員が増えたぞ」
大友先生は、小汀に言った。
「ええ、ユーレイ部員が」
小汀は、大友先生に苦笑していた。しかし、小汀は内心では、例えユーレイ部員だろうが、ゆみが天文部に入部と聞いて喜んでいた。ゆみは、8年生になったときクラス替えで4組に来て以来、小汀にとってなんとなく気になる存在なのであった。
春の旅行につづく