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自由
「そういうわけで、本当に申し訳なかった」
会見の最後に再度、大統領が深々と頭を下げて会見は終了となった。
会見が終わると、各社テレビ番組は一斉に貧民問題を報道し始めた。今まで自分たちよりもランクの低い存在と思っていた貧民が、実は政府の策略で嘘だったということは、地球の国民全員に衝撃を与えていた。
「貧民ってウソだったのか」
次の日は、朝から地球上では大騒ぎになっていた。
世界じゅうにある貧民街は、全てただちに廃止されて、その施設は取り壊された。そこに住んでいた貧民の人々は、政府が用意した大型バスに分乗し、近くの病院に連れていかれた。そこで、貧民たちは順番に左腕とお尻に押された焼き印の跡をレーザー治療で消去してもらった。医学の進歩のおかげで、まるでそこに焼き印など最初からされていなかったかのように、きれいに跡は消去されていた。
その後、貧民たちはどこへでも好きな場所に行けるという自由を手に入れた。
もちろん、いきなり自由に解放されても、今までお金も何も与えられずに暮らさせられていた人々である。どこにも移動できない。
なので、地球政府から貧民だった人たちそれぞれには、多額の賠償金が支払われた。
これで、貧民だった人々は、名実ともに自由を手に入れたこととなった。
「おいおい、どうするよ!このお金」
貧民街にいた竜は、ほかの少年盗賊団の子どもたちに自分がもらった賠償金の書かれた紙を見せながら、笑顔で言った。
「こんな大金、俺は今までに見たこともないぞ」
「竜。全部いっぺんに使ったりしたらダメだよ」
多額の賠償金額が書かれた用紙を見ながらほくそ笑んでいる竜に、あゆみが注意した。
「ね、皆!この賠償金だけど、いったん私に全部預けてもらえない?」
あゆみは、少年盗賊団の子どもたち皆に提案した。ゆみがヤマトに乗るとき、ゆみから少年盗賊団のリーダーは頼むよと言われていたあゆみは、すっかり皆の姉御肌、リーダーの貫禄が出てきていた。
「いいよ」
小さい子たちは、皆すぐに、あゆみのところに自分がもらった賠償金の紙を手渡していた。が、少し年齢の上の子たちは、持ってこなかった。
「お前さ、俺たちから賠償金を取り上げてどうする気だよ?」
「まさか全部独り占めする気じゃないよな?」
竜たちは、あゆみに言った。
「バカじゃないの。あたしがそんなことすると思う?」
あゆみは竜たち年長組の子たちに言った。
「あたしは、別にあんたたちの賠償金を自分で使ったりするつもりはないよ。ただ、無くしちゃったり無駄遣いするといけないから、ゆみちゃんたちが地球に戻ってくるまでの間、預かっておくだけよ。ゆみちゃんたちが戻ってきたら、お金はゆみちゃんとゆみちゃんのお母さんたちに渡して、どうしたら良いか聞こうと思うの」
あゆみは、年長組だけでなく皆に言った。
「うん、それがいいよ。俺らまだ子どもだもの。こんな大金をいきなり渡されたってどうしたら良いかぜんぜんわからないよ。ゆみちゃんのお母さんたちなら、きっと俺たちに一番良いお金の使い方考えてくれるよ」
そう言って、皆はあゆみに賠償金の用紙を手渡した。
あゆみも、お金を落としたり無くしたりしたら嫌なので、皆から預かった賠償金を役所の担当者に頼んで、銀行に貸金庫を借りてもらい、その中に預けた。ゆみたちが戻ってきたら、この貸金庫を渡そう。そう思っていた。
「しかし、ゆみ姉のやつってスゴいな!」
「全くだよ。なんかイスカンダルのスターシャって人も、ゆみ姉が救ったんだろう。おまけに俺たち全員の貧民まで解放してくれちゃうんだもん」
子どもたちは、ゆみのことを褒めていた。スターシャは、ゆみが救出したかもしれないが、本当は貧民の件は祥恵がやったのに、地球ではスターシャも貧民問題も全て、今期の訓練学校で最優秀MVP卒業生だった元貧民の子が救ったと報道されてしまっていたのだった。
「ゆみ姉、いつ頃、地球に戻ってくるのかな?」
「もうヤマトは、黒艦隊との戦いは終わって、地球に向かって飛んでいるところだってテレビは報道していたけどな」
子どもたちは、自由になったことの喜びを噛みしめながら、ゆみの帰還を心待ちにしていた。
第二のガミラス星につづく