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逃亡
「相原君、どうしたの?」
森雪は、突然に大声をあげた相原に聞いた。
「あそこ、沖田艦長の、銅像の手の上に誰か乗っているんです」
相原は、森雪に言った。
「え、誰かいるって?」
「そんなバカな。あんなところに乗っている人がいるなんて。沖田艦長は、地球の英雄だぞ。その銅像によじ登るなんて、そんな罰当たりなことするやつはいないだろう」
相原の言葉に、ほかのヤマト乗組員たちは口々に話していた。
「本当に誰かいるのかしら?」
森雪は、夕刻で夕陽が眩しいので、片手で自分の目の上を覆いながら、沖田艦長の銅像を見上げた。
「特に、誰もいないような・・あ!長い髪が、女の子かな」
森雪は、手の平の上にたなびいている長い髪を見つけて叫んだ。
「本当だ!女の子だ、女の子が沖田艦長の上によじ登っている」
ヤマトの乗組員は、手の平の上にいるゆみの姿を確認して、叫んでいた。太助は、それを聞いてヤバいと思った。
どうするんだよ、ゆみちゃん。皆に見つかっちゃったよ。
太助は、心の中で銅像の上にいるゆみに叫んでいた。
もちろん、頭上にいるゆみも、皆に見つかってしまったことは気づいていた。さて、どうしよう?ここから飛んだら、あの花壇の向こうの芝生の上にうまく着地できるかな?少し、距離が遠かったが、ゆみならば、なんとかあそこまで飛べそうだ。手の平の上のスペースを目いっぱい使って助走をつければ。
「太助!今すぐバイク置き場からバイクを持ってきて!」
ゆみは、下にいる太助に向かって、命令した。
宇宙戦士訓練学校でも、ゆみはよく大声で太助に命令していた。学校の教室の窓から食堂にいる太助に向かって、お昼のパンを買ってきて。部活が終わって、体育館から出てきた太助に向かって、学校の職員室の窓から教科書を持ってきて。などなど、ゆみは、よく太助に命令していた。太助も、ゆみの役にいろいろ立つのが嬉しいらしくて、命令されると、はい!と叫んでその通りにしていた。
「はーい!」
英雄の丘でも、ヤマトの先輩乗組員たちが見ている前で、ゆみに大声で返事すると、丘を駆け下りてバイクが置いてあるバイク置き場に向かっていた。
太助は、バイク置き場に到着すると、そのまま自分のバイクにまたがって、エンジンをかけると公園の中、英雄の丘の途中まで上ってきた。
その姿を沖田艦長の銅像の上から確認すると、ゆみは、手の平の上を目いっぱい使って助走をつけ、丘の向こうまで飛び降りようとしていた。
「やめなさい!そんなところから飛んだら怪我をするわよ」
森雪は、ゆみの飛ぼうとしている様子を確認すると、慌てて制止した。
3、2、1・・
が、ゆみは、手の平の上で思い切り助走をつけると、そのまま丘の下まで飛んだ。
「あっ!」
ヤマトの乗組員たちは、ゆみの行動に息をのんで見つめていた。
ゆみは、大きな沖田艦長の銅像から飛び降りると、大けがを・・しなかった。そのまま、ゆみの予定通りに、花壇の向こうの芝生の上に着地した。
ゆみが着地すると、太助がバイクでその側までやって来た。ゆみは、ヘルメットを被ると太助のバイクの後ろにまたがった。
「学校に帰ろう!」
ゆみに言われて、太助は、そのままバイクを出して、学校から来た道を今度は逆に学校へ向けて走りはじめた。
お姉ちゃんの救出につづく