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エリート
「エリート、エリートども・・」
ゆみは、佐渡先生の家のリビングにいる3人を見ると、即座に警戒した。
「まあ、待て、待て!」
佐渡先生が、警戒して側にあった電灯を振り上げたのを取り押さえて、ゆみに言った。
「先生。こいつら、エリート」
「エリートじゃないよ。ただの宇宙戦艦ヤマトの乗組員だ」
佐渡先生は、ゆみに説明した。ゆみは、自分の腕を確認して、ちゃんと両袖がおりていて、貧民の焼き印が見えていないことを確認した。
「彼女が。ゆみ君というんだ」
佐渡先生は、ゆみの両腕を抑えながら、3人にゆみのことを紹介した。
「こんにちは、ゆみちゃん」
ゆみに挨拶したのは、森雪という乗組員だった。ゆみは、無視していた。
「これから、お前たち3人を彼女のお家に案内してやる」
佐渡先生は、逃げようとするゆみを捕まえながら、3人に話した。
「それじゃ、行こうか」
そう言うと、佐渡先生は、ゆみのことを抱き上がるとそのまま、3人の先頭に立って、階段を降り、貧民街の中を進み始めた。後ろの3人も、佐渡先生の後についてくる。
「なんでよ!なんで、こんな奴らを、ゆみのお家に案内するのよ!」
ゆみは、佐渡先生に抱き上げられながらも、佐渡先生に抗議した。
「まあ、良いじゃないか」
佐渡先生は、ゆみを抱いたまま歩いて行く。
「ここは、いったい何なのですか?」
後ろから佐渡先生の後を追っかけながら、古代進が佐渡先生に聞いた。
「ここか。ここは、貧民街と呼ばれる場所だ」
佐渡先生は、貧民街と貧民のことを3人に説明した。ゆみは、佐渡先生に抱き上げられながらも、なんでこいつらに貧民のことをばらすのか不思議でたまらなかった。自分には、いつもくれぐれも貧民であることを学校で悟られるでないぞと言うくせに、佐渡先生自らエリートの人たちに貧民をばらしているではないか。
明日から、ゆみは卒業式の後に宇宙戦艦ヤマトのテストセーリングに行くのだ。そのことは、さっき佐渡先生にも話していて、了解は取ってあるのだ。なのに、その宇宙戦艦ヤマトの乗組員に、ゆみが貧民であることをばらしたりされたら、明日からのテストセーリングに乗れなくなってしまうではないか。
「地球政府が、そんなことを・・」
「それは、何としてもそんな制度は廃止にしなければならないですね」
佐渡先生から貧民の話を聞いた古代進たち3人は、歩きながら口々に話していた。
「で、先生には廃止にする何か秘策はあるんですか?」
「いや、まだない・・」
佐渡先生は、3人に答えた。
「で、君たち3人に頼みがあるんじゃ」
佐渡先生は、ゆみの家、貧民街の中のコンテナの前までやって来て言った。
「はい、なんですか」
森雪は、佐渡先生に聞いた。
佐渡先生は、それには答えず、コンテナの前に付いている扉をノックした。
「はーい、どちら様ですか」
扉の中から、ゆみのお母さんが出てきた。
「あ、先生」
「こんばんは。夜分遅くにすまんな」
佐渡先生は、抱き上げていたゆみを、お母さんに渡しながら挨拶した。
「あらら、ゆみちゃん。すみません・・」
お母さんは、暴れるのに疲れて眠ってしまっていたゆみの身体を、佐渡先生から受け取ると、奥のカーテンの向こうにあるベッドらしきもののところに連れて行き、そこに寝かせた。
そこのベッドの上には、あゆみたちも横になって眠っていた。
「まあ、かけなさい」
佐渡先生は、人の家なのに、まるで自分の家のように部屋の真ん中にある大きなテーブルの周りに置かれた椅子を3人にすすめた。
「先生、こちらのかたは?」
テーブルの椅子に腰掛けて、うつらうつらしていたお父さんが佐渡先生に聞いた。
「彼らは、宇宙戦艦ヤマトの乗組員じゃ」
佐渡先生は、お父さんに3人を紹介する。
「あのじゃな、ある理由があってな、ゆみ君は宇宙戦士訓練学校の生徒なんじゃ。もちろん彼女が貧民であることは内緒にして、わしが入学させたんじゃ」
佐渡先生は、ゆみのことを話した。
「彼女は、訓練学校では非常に一生懸命に2年間勉強しおってな。なにせ、クラスのコスモタイガー研修で最優秀、MVP隊員になったほどだ」
「はあ」
森雪は、奥のベッドで、お母さんに眠らせられているゆみの姿を見ながら、先生の話を聞いていた。
「それでな、明日からのヤマトのテストセーリングじゃが。そこにだな、彼女の卒業祝いに、学校の修学旅行だと思って、彼女のことを乗せてやろうと思うんじゃ。もちろん、彼女は正式にヤマトの乗組員になるわけではない。今回のテストセーリングのみの乗船じゃ」
佐渡先生は、3人に話を続けていた。
「で、じゃな。テストセーリングでの唯一の心配はだな。テストセーリング中に、彼女が貧民であることをヤマトの中で誰かにばれてしまわないかってことである。そこで、君たちに、なんとか彼女が貧民であることがばれずに無事にテストセーリングを終えられるように、取り繕ってもらえんじゃろうか」
「それは、かまいませんけど・・」
ほかの2人よりも早く真っ先に、森雪が佐渡先生に答えた。
お母さんもいっしょにつづく