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長官の死
「それで、なんとか会談を再開できんかね?」
地球政府の大統領は、会合の席で宇宙人たちの親玉と話していた。
地球人と宇宙人たちとの、地球での共存に関する会議の再開を大統領は望んでいるようだった。会談は、開かれていたのだが、その最中に、ゆみたちが港で宇宙人たちの宇宙船を1隻爆破してしまったので、ご立腹の宇宙人たちが会談を放棄してしまっていたのだった。
「私らは、君たち地球人との共存を願っていたのだが・・」
「会談の最中に、勝手に攻撃してきて、我々の宇宙船を破壊してしまったのは、君たち地球人の方じゃないか。そんな連中との共存は、現状では考えられない」
宇宙人たちは、盛んに地球人が宇宙船に攻めてきて破壊してしまったことを責めていた。しかし、会談の最中に、港にタコ型乗り物を暴走させ、港に住んでいた地球人たちを攻めていたのは宇宙人も同罪なのではという気はするのだが。
「そこを、なんとか大人になって話し合おうではないか」
地球政府の大統領は、宇宙人たちに提案する。
「いや、司令官である私は、会談の再開しても良いとは思っているのだが。このまま再開したのでは、我々の本星の司令官に納得してもらえないだろう」
宇宙人たちは、なんだかんだと理屈を付けて、会談の再開をごねていた。実は、宇宙人たちには、そもそも地球人との共存は考えてもいなかった。最終的に、地球人を地球から追い出し、誰もいなくなった地球に、自分たちが住んでしまおうと考えているようだった。そこで、地球人たちが宇宙船1隻を破壊してくれたので、これ幸いとばかり、そのネタを理由にしてごねているようだった。
「祥恵君、雪君、3分後に爆破が起こる。その爆破の隙に、ここから逃げ出しなさい」
会合の隅に同席していた長官が、同じく横に同席していた祥恵と森雪に話した。
「3分後に爆発ですか?」
「ああ」
長官は、祥恵に聞き返されて黙って頷いた。
「爆破の混乱で、ここから逃げ出したら、大統領官邸前に停まっている大統領専用機に乗りなさい。君たちヤマトの皆を、大統領専用機に乗せるように関係各方面には既に手配済みだ。君たち以外のヤマト乗組員も皆、大統領専用機に向かっている頃だと思う」
長官は、2人に説明した。
「大統領専用機に乗ったらどうなるのですか?」
「既に航海長の島大介には伝えてあるのだが、彼が大統領専用機を操縦して、小惑星イカルスまで飛んでもらう。そこから宇宙戦艦ヤマトを隠してある場所まで移動できるように手配してある」
「わかりました。小惑星イカルスまで飛べば、そこでヤマトに乗艦できるから、その後、宇宙戦艦ヤマトで地球に戻り、こいつら宇宙人どもを退治するってことですね」
祥恵は、長官に返事した。長官は頷いた。
「で、爆破というのは?」
森雪が、長官に聞いたが、
「3分後に起こる」
それしか長官は答えてくれなかった。
そして3分後、長官が胸ポケットの中に隠し持っていた時限爆弾が爆破した。長官は、自らの命を絶って、祥恵や森雪、ヤマト乗組員を逃がしてくれたのだった。
「長官ー!」
祥恵は、思わず爆破で発生した白煙の中、長官の姿を探した。そんな祥恵の身体を抱えながら、森雪は祥恵の身体と一緒にその場を離れた。
「雪さん、あそこには長官が残っている・・」
祥恵は、一緒に逃げようとする森雪に抗議したが、森雪は黙ったまま、祥恵に頷くだけだった。祥恵にも、長官はもう助からない、自らの命を犠牲に自分たちのことを逃がしてくれたのだとはわかってはいた。
「長官・・」
祥恵は、自分の目から涙が落ちてくるのを拭きながら、下に降りるエレベーターに乗って、森雪と省庁の出口を目指した。
「雪さん、気をつけて!」
省庁の出口から表に出ると、祥恵は森雪の身体を引っ張って、建物の陰に隠れた。そこで、自分のベルトに付けているホルスターから銃を抜くと、両手に構えながら、建物の陰から表へそっと顔を出し様子を伺う。
「雪さん、私についてきてね」
戦闘班長である祥恵は、普段生活班の森雪をかばいながら移動する。さっきまで長官の死に涙していた祥恵の姿は、もうそこには無かった。
「あそこの木の下まで走れる?」
「ええ」
祥恵は、表の木の上に登って待機していた宇宙人を銃で撃って倒すと、森雪と一緒に木の下を目指して、全速力で走り出した。
2人は、木の下までたどり着くと、そこで走ってきた息を整えていた。
「あっちに見える白い建物が大統領官邸ね。その前の、あそこに停まっている飛行機が大統領専用機ね。あそこまで走り抜けるしかないか」
岩の陰には宇宙人たちが隠れて、そこから地球人を見つけると、地球人に向かって銃を乱射していた。祥恵も、そいつらに向かって銃で応戦していた。
2人は、岩の陰の宇宙人を倒しながら、少しずつ大統領専用機に近づいていた。
イカルスへにつづく