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60 クラス替え
「お母さん、本当にやめてよ!」
祥恵は、お母さんに怒っていた。
「どうして?ゆみちゃんがかわいそうじゃない」
お母さんは、祥恵に返事した。
「だからって、私のことも4組に変えさせようと先生に直談判するなんて、私が恥ずかしいからやめてよね。お母さんが、もしそれ本当にやったら、完全にモンスターペアレンツじゃないの」
「だって、ゆみちゃんが・・」
お母さんは、祥恵に何か言いたそうだった。
「おまえ、本当にやめておけよ!学校が決めたクラス配置にクレーム付けにいくなんてこと」
お父さんが、今度はお母さんに注意した。
「だって、あなた。私、百合子ちゃんのお母さんにも電話で話してみたんですよ。そしたら、それはひどすぎるって、百合子ちゃんのお母さんも言ってくれたんですよ」
お母さんは、昨日の晩に百合子のお母さんと話したことを、お父さんに報告した。
「ゆみは、7年の学校の成績すべて満点だったんですよ。そんなゆみが、大好きなお姉ちゃんと一緒のクラスが良いって言っているのに、それを聞いてあげないなんて、学校側の横暴です」
お母さんは、お父さんに訴えた。
「とりあえずね、今日のお昼に、百合子ちゃんのお母さんと吉祥寺でお買い物がてら会うことになっているの。そのときに、百合子ちゃんのお母さんの話も聞いてみようと思って・・百合子ちゃんのお母さんは、ずっと学校でPTAの活動しているから、学校のこととか色々詳しいんですよ」
お母さんは、言った。
「ああ、そのお話ね。そのお話なんだけど・・」
吉祥寺のデパートでお買い物を終えた後、レストランでお昼を食べているときに、百合子のお母さんが、お母さんに言いづらそうに返事をした。
「結論からいうと、私も、ゆみちゃんは4組で、祥恵さんとは別のクラスが良いと思うの」
百合子のお母さんは、うちのお母さんにズバリと言った。昨日の電話で話していたときとは、百合子のお母さんの考えは、ガラッと変わっていた。
「ゆみちゃんの4組へのクラス替えの件なんだけど、4組担任の大友先生が提案したことみたいなのよ。大友先生の提案によると、このまま、ゆみちゃんのことを祥恵さんと一緒にしておいては、ゆみちゃんの成長のためにならないっていうのよ」
百合子のお母さんは、学校の先生たちから聞いた話を、お母さんに伝えた。
「そういうことなんですね」
お母さんも、百合子のお母さんの話を聞いて納得してしまったようだった。
「ゆみちゃん、8年生になったらなんだけど、お姉ちゃんとは別々のクラスになってしまうけど、学校のクラスは1人になってしまうかもしれないけど頑張ろうか」
その日、家に帰ってくると、お母さんは夕食の手伝いを一緒にしているゆみに、優しく声をかけた。
「ほら、ニューヨークにいた頃なんて、お姉ちゃんとは全く会えなかったけど、ちゃんと暮らせていたじゃない。それを考えたら、8先生になっても、行き帰りの通学は、今まで通りお姉ちゃんと一緒に通学もできるんだし」
お母さんは、ゆみに説明した。
「だったら、8年生になって、お姉ちゃんと違うクラスになっても、学年は一緒なんだし、ゆみちゃんなら絶対に頑張れると思うんだ!麻子ちゃんとかお友達だっているんだし」
お母さんに説得されて、ゆみも渋々と納得した。
結局、春休みが終わって、8年生になり1組から4組にクラス替えしたのは、ゆみと麻子、それにまゆみの3人だけだった。他の1組の子たちは皆、祥恵も含め、そのまま佐伯先生の1組のままだった。
ほかの2組、3組、4組の子たちも7年生から8年生に上がる際にクラス替えになった人は1人もいなかった。結果的に、今回のクラス替えは、ゆみを祥恵の側から離すだけのためのクラス替えのようなものだった。それに仲の良い麻子やまゆみが巻き込まれたみたいな感じだった。
「今日から8年です。4組には、1組からクラス替えで移ってきた生徒さんも何人かいますが、もともとの4組の皆さんも皆で仲良く8年の学園生活をエンジョイしましょう」
8年生最初のホームルームのときに、大友先生が皆に声をかけた。
「おお、宜しくな!」
もともと4組の田中が、鳥居に声をかけた。
「お、こちらこそ!」
鳥居も笑顔で田中に返事を返した。はじめは、クラス替えは、ゆみたち3人の予定だったのだが、佐藤たち優等生が集まる1組の授業から脱落した鳥居も、急遽、1組よりは少し偏差値の低い4組へと変更になったのだった。
鳥居と田中は、教室中央付近の席に2人並んで座っていた。
麻子と真弓は、教室の窓側、前方付近に空いていた2つの席にそれぞれ座らされていた。ゆみは、教室の一番後ろ、村岡久美子や男子バスケ部の柳瀬、岩本たちの座っているところにあった空席に座るように指示されていた。
ゆみは、背も他のクラスメートよりも常に小さいので、学校では、いつも教室の前の方に座らされていた。なので、こんな教室の一番後ろに座らせられるのは生まれて初めてだった。
「良いだろう。名案だろう。頭の良いゆみが、一番後ろに座って授業を受けてもらうことで、周りの子たちも皆、真剣に授業を受けるようになって、クラス全体で良くなれるだろう」
この席の配置を考えた大友先生は、クラスの皆に自慢していた。
「なんか、先生の声がよく聞こえない」
後に、後ろの席で授業を受けたゆみに後ろの席の感想を聞くとそう話していた。
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